ランチェスター経営ジム

岡 漱一郎の
戦略コラム
2024. 06

仕事に覚醒を起こせるか

覚醒とは目をさますこと、目がさめること。または、比喩的に、誤りや迷いに気づくことです。一般的に「仕事が出来る人」は、仕事に対して覚醒をしているとも言えます。

誤りや迷いなく、本質的な仕事をしています。本質的な仕事とは、意味のある仕事であり、以下、P.F.ドラッカーが著書『マネジメント』の中で示した有名な「三人の石切り職人の話」にそれがよく表されています。

旅人は、ある村を訪れました。

村では、三人の石切職人が、作業をしています。何やら、大きな建物を建築しているようです。

旅人は尋ねました。

「あなた方は、何をしているのですか?」

一人目の男は答えました。

「カネを稼いでいるんだよ」

二人目の男は答えました。

「私は、国一番の石切職人になるために、技術を磨いているのです」

三人目の男は答えました。

「私は、村人の皆さんの憩いの場所となる、教会を建築しているのです」

これは女性哲学者、ハンナ・アーレントの「働くとは何か」の定義と見事に一致します。ハンナ・アーレントは、それを三段階に定義しました。

「活動」  他者とのコミュニケーションを図る(経営者)

         ↑

「仕事」  仕事に創意工夫を取り入れる(職人)

         ↑

「労働」  指示されたことだけをする(労働者)

仕事の覚醒とは、仕事から活動に思考が変わる時です。その仕事の意味を知り、それに沿って仕事を進める思考とも言えます。

活動の「他者とのコミュニケーション」とは、全体利益を目的とした考え方でもあり、近江商人の「三方よし」も、この考えに通じます。

ただ、日常の仕事の中で、意外と厄介なのが「仕事」レベルの人ではないでしょうか。
「自分は間違っていない、正しい」という意識が強い職人タイプの人です。

全体が見えていないので、悪気なく全体利益を損なう発言や行動が多くなります。仕事をする前から指示に対して、「それで成果が出なかったら、どうするんですか!」と聞いてくることもあります。

労働は作業であり、作業は成果が見えています。しかし、仕事は労働と違い、成果を出すためのトライであって、成果が保証された仕事など存在しないのです。

仕事思考の人は、自分は無駄な仕事をしたくない、という自分思考が強い為、全体利益に向かってのトライ、という意識が、どうしても薄くなります。

全体利益とは、決して会社の利益だけのことではありません。そこには、お客様の利益も当然、含まれています。

お客様の利益を理解した者が、仕事の覚醒領域へと入って行くのではないでしょうか。

岡 漱一郎

岡 漱一郎株式会社ハードリング

1962年生。岐阜県大垣市出身、愛知県名古屋市在住。
ランチェスター経営戦略と孫子の兵法を駆使する経営コンサルタント。全国20カ所で毎月勉強会を開催し、指導を受ける経営者は400人を超える。その活動がNHK「クローズアップ現代」で取り上げられ、また建築業界誌「建築知識ビルダーズ」にて「経営戦略ジム」の連載を受け持つ。
また、豊臣秀吉の最初の軍師 竹中半兵衛の家臣(竹中十六騎)、その末裔にあたる。

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